「カイロプラクティックは、腰痛や首の痛みといった筋肉や骨格の問題を解決してくれる場所」
多くの方がこのようにイメージされていると思います。実際に、脊椎マニピュレーション(カイロプラクティックの施術)は、首の痛みや腰痛のような筋骨格系の症状に対する合理的な治療選択肢として広く受け入れられています 。
しかし、「カイロプラクティックが、実は内臓の働きにも関係しているかもしれない」と聞いたら驚かれるでしょうか?
「背骨へのアプローチが、なぜ内臓に?」と疑問に思われるかもしれません 。
今回は、この「脊椎(背骨)への施術」が「内臓機能」にどのような影響を与えうるのかについて調査した学術論文(※)の内容に基づき、カイロプラクティックと自律神経の深い関係について分かりやすく解説します。
(※ 参考文献: Bolton PS, Budgell B. Visceral responses to spinal manipulation. J Electromyogr Kinesiol. 2012 Oct;22(5):777-84. )
なぜ背骨が内臓に関係するのか? 鍵は「自律神経」
私たちの身体の働きは、大きく分けて2つの神経系によってコントロールされています。
- 体性神経系:
- 手足を動かしたり、熱い・痛いといった感覚を脳に伝えたりする、私たちが「意識できる」神経系。
- 自律神経系:
- 心臓の鼓動、呼吸、消化、血圧の調整など、内臓の働きを「無意識下で」コントロールする神経系。自律神経は、活動モードの「交感神経」とリラックスモードの「副交感神経」の2つがバランスを取り合っています。
カイロプラクティックが内臓機能に関わる可能性を説明する上で非常に重要なのが、「体性-自律神経反射」と呼ばれるメカニズムです 。
これは、皮膚や筋肉、関節といった「身体(体性)」への刺激が、反射的に「内臓(自律神経)」の働きに影響を及ぼす現象のことです 。
例えば、冷たい水風呂に入ると心臓がドキドキする(交感神経が興奮する)のも、この反射の一種です。
カイロプラクティックの施術は、まさにこの背骨やその周辺の関節・筋肉(体性神経)にアプローチするものです。そのため、施術による刺激が「体性-自律神経反射」を引き起こし、自律神経のバランス、ひいては内臓機能に影響を与えるのではないか、と考えられています 。
脊椎マニピュレーションでどんな変化が? 研究報告の紹介
では、実際に脊椎マニピュレーションによって、身体の内部(内臓機能)にどのような変化が起こるのでしょうか?
ご紹介する論文は、健康な人々を対象に脊椎マニピュレーションを行った過去のさまざまな研究データを集めてレビューしたものです 。
(注意点) 論文の著者らは、この分野の研究はまだ始まったばかりであり、多くの研究が小規模であるため、今後さらに大規模な研究が必要であると指摘しています 。ここで紹介するのは、あくまで「このような可能性が示唆されている」という段階の報告です。
1. 心血管系(心臓・血圧)への影響
最も多くの研究が行われている分野が、心臓や血圧といった循環器系への影響です 。
- 心拍や血圧の変化: 頸椎(首)、胸椎(背中)、腰椎へのマニピュレーションが、心拍数(HR)や血圧(BP)を変化させる可能性が報告されています 。
- 自律神経バランスの変化: 心拍変動(HRV)という自律神経のバランス状態を示す指標を調べた研究では、施術によって心臓をコントロールする自律神経の出力が調節されることが示唆されています 。
- 例えば、頸椎や胸椎への施術が交感神経の働きに影響を与えたり 、腰椎への施術が副交感神経(リラックス)の働きをわずかに高めたりする可能性が報告されています 。
- 末梢の血流: 手足の皮膚温度や血流に変化が見られたという報告もありますが、結果(血流が増加した、減少した、変わらなかった)は研究によってまちまちでした 。
2. 呼吸器系への影響
呼吸機能に関する研究は、心血管系に比べて非常に少ないのが現状です 。 いくつかの小規模な研究で、頸椎への施術後に「努力肺活量(FVC)」や「1秒量(FEV-1)」(息を思い切り吐き出す力や量)がわずかに増加したという報告がありますが、対照群(施術をしないグループ)が設定されていないなどの限界もあります 。
3. 胃腸機能への影響
この分野の研究は、論文の調査時点では「ほとんどない」とされています 。 非常に小規模な(被験者4名)研究で、首(上部頸椎)への施術後に「胃の緊張が高まった(=胃の活動が変化した可能性)」という報告が1件あるのみでした 。
4. その他の影響(ホルモン・免疫など)
自律神経だけでなく、ホルモンや免疫系への影響を調べた研究もあります 。
- β-エンドルフィン: 頸椎マニピュレーション後に、脳内で働く鎮痛物質(内因性オピオイド)である「β-エンドルフィン」の血中濃度が上昇したという報告があります 。
- 免疫機能: 胸椎への施術後に、炎症に関わる物質(サイトカイン)の産生が減少したり 、抗体(免疫グロブリン)の産生が増加したり と、免疫系の働きが変化したことを示す報告もあります。ただし、これらの結果もまだ一貫性はありません 。
まとめ:カイロプラクティックと神経系のつながり
これらの研究報告が示唆しているのは、カイロプラクティックの施術が、単に背骨のズレや筋肉の緊張に働きかけるだけでなく、「体性-自律神経反射」というメカニズムを通じて、自律神経系、さらには免疫系やホルモンバランスにも影響を及ぼす可能性があるということです。
カイロプラクティックは、背骨の機能異常にアプローチすることで、神経系全体の働きを正常化することを目指しています。
背骨(体性神経)からの情報伝達がスムーズになることで、自律神経(交感神経・副交感神経)のバランスが整い、内臓が本来持つ機能を取り戻すきっかけになるかもしれません。
「なかなか治らない内臓の不調が、実は背骨や自律神経の乱れから来ている」というケースも考えられます。
もちろん、カイロプラクティックが全ての病気を治すわけではありません。しかし、もしあなたが原因不明の体調不良や自律神経の乱れによるお悩みをお持ちであれば、その不調の「根本原因」として、背骨と神経系の働きを見直してみてはいかがでしょうか。
腰痛や肩こりだけでなく、「なんとなく調子が悪い」といったお悩みも、ぜひ一度当院にご相談ください。
